本郷どうぶつ病院

犬アトピー性皮膚炎Canine Atopic Dermatitis

1. 犬アトピー性皮膚炎の知識

2. 犬アトピー性皮膚炎の管理・治療

3. 犬アトピー性皮膚炎のよくある質問

1. 犬アトピー性皮膚炎の知識

犬アトピー性皮膚炎とは? -なぜなってしまうの?-

とても多い皮膚病

犬全体の10%(10頭に1頭)はアトピー性皮膚炎があるといわれています。

遺伝的な背景

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因があるといわれています。(下記は日本でアトピー性皮膚炎の発生が多い犬種)
・柴犬
・シーズー
・ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
・ゴールデン・レトリバー
・ラブラドール・レトリバー
・ミニチュア・ダックスフント
・フレンチ・ブルドック
・ビーグル
・トイ・プードル

いろいろな問題が複雑に絡んだ病気

アトピー性皮膚は、様々な要因が絡み合って初めて発症します。
・アレルギーの原因物質(アレルゲン)が存在
・皮膚のバリア機能(防御力)の低下 → アレルゲンが侵入
・侵入したアレルゲンに体が異常な反応を示す(アレルギー体質)
どれが欠けても、つまりどれかが防げれば、アトピー性皮膚炎は発症しません。ただ、どれも解決することが困難なため、治療も難しいというわけです。総合的に管理して行く必要があります。

アトピー性皮膚炎の管理の考え方

アトピーではその発症要因を管理するため、3つのコンセプトに分けて考えます。どれかだけを行えばよいのではなく、それぞれ組み合わせて最大の効果を狙います。

1.アレルゲンをなくす

どんなに皮膚が弱くても、どんなに強いアレルギー体質を持っていても、アレルゲンをなくすことができれば、アトピー性皮膚炎は発症しません。犬での主なアレルゲンは次のようなものがあります。
・ハウスダストマイト(家のチリに含まれる人のフケなどを食べるダニ)
・草の花粉
・樹木の花粉
・カビ類
・猫など、他の動物のフケ
・昆虫の死骸
これらのものを完全になくすことは、現実的には無理だと思います。アトピー性皮膚炎を管理するまでにするには、人間のICU並みの設備でないとむずかしいでしょうが、空気清浄機を使用したり、こまめにシャンプーをするなどしてアレルゲンの数を減らすことは、効果的な場合があります。

2.皮膚バリア機能の回復

皮膚のバリア機能(防御力)が弱くなると、皮膚表面からアレルゲンが入り込みやすくなります。体内に入ったアレルゲンが、アレルギー反応を起こし、アトピー性皮膚炎を発症します。よって、バリア機能を回復させれば、アレルゲンの侵入を防ぎ、症状を抑えることができます。
アトピー犬は、皮膚の保水成分である「セラミド」が少ないというデータがあります。皮膚が乾燥しやすくなり、バリア機能が低下してしまうのです。アトピー性皮膚炎の犬では、低刺激性または保湿作用の強いシャンプーを使うとともに、保湿剤を使用してスキンケアをすることで、皮膚バリア機能を助けることができます。

3.アレルギー体質の管理

これがいわゆる薬による治療となります。単に痒みや炎症を抑えるだけの対症療法と、体内の免疫機構を整える根本的治療法があります。それぞれを組み合わせて使用することも多いです。
ただし、アレルギー体質は遺伝的な体質といわれており、そのような体質を完全に正常にするのは無理です。ここにアトピー性皮膚炎の治療の難しさがあります。

犬アトピー性皮膚炎の診断

いろいろなアレルギー検査

アレルギー検査で最も信頼性の高い検査は「皮内反応検査」と言って、皮膚に直接アレルゲンの候補を注射して、その反応によってアレルギーの原因を調べるという検査法です。最近は血液による検査(IgE検査など)の精度も向上しています。
ただ、これらの検査はあくまで「アレルギーの原因物質を推定する検査」であり、「現在のかゆみがアトピー性皮膚炎によるものかどうかを判定する検査」ではありません。仮に何らかの陽性反応が見られたとしても、それが本当に犬の痒みの原因となっているかどうかは別問題だからです。例えば、疥癬という寄生虫がいる場合にアレルギー検査をすると、ハウスダストマイトが陽性と出てくることがあります。またアレルゲンの候補に実際の原因物質がなければ、検査漏れが出てしまいます。
現在公表されている「犬アトピー性皮膚炎の標準的治療ガイドライン」の中でも、「アトピー性皮膚炎の診断は患者の状態を総合的に判断し、検査値をもとに行うものではない」としています。診断で重要なのは、高い費用のかかるアレルギー検査ではなく、獣医師が症状や基礎的な皮膚検査によって他の病気を除外し、総合的に判断することです。
もちろん、総合的にアトピー性皮膚炎であるとした場合は、次のステップとして原因を判断し、また治療に役立てるためにアレルギー検査を行う事はとても有用です。

重要なのは他の似たような病気を除外すること

アトピー性皮膚炎を総合的に判断するためには、他に痒みを出すような病気を除外する必要があります。そうでないとアトピー性皮膚炎という病気に絞り込むことができません。

犬アトピー性皮膚炎を治療する前に必要なこと

アトピー性皮膚炎と診断し治療をする前に、以下のような病気を完全に否定することが必要です。なぜなら、以下の病気は基本的に治る病気であり、アトピー性皮膚炎は治らない病気です。治らない病気を考えるよりは、治る病気があるのであればさっさと治してしまった方が良いということです。また、以下の病気はアトピー性皮膚炎の治療を行うことにより、悪化することもあるからです。

1.表在性膿皮症
この病気は、毛穴(毛包)の中に細菌が入り込み、炎症を起こす皮膚炎です。痒みがあります。赤い小さなプツプツや、環状の赤みなどが見られます。原因菌はどこにでも存在する菌で、特別悪い菌ではないのですが、皮膚の免疫力が低下すると、悪さを始めます。アトピーの犬は皮膚の防御力が落ちていますので、繰り返し発生することも少なくありません。他の犬に伝染したりすることはないので、安心してください。
治療は3週間以上かかります。良くなったからと言って、短期間で治療を終了すると、再発したり薬剤耐性菌という厄介な菌を生み出す原因となりますので、獣医師の指示にはしっかり従ってください。
2.マラセチア皮膚炎
マラセチアというのは、酵母菌の一種で、これも正常な犬にも存在する微生物なのですが、皮膚が弱ったり、皮膚の脂(皮脂)が過剰になると、増殖し赤み、痒みなどの皮膚炎を起こします。外耳炎の悪化要因になることも多い微生物です。
治療は、外用薬・内服薬やシャンプーを用います。治療は通常1ヶ月程度です。
3.疥癬(センコウヒゼンダニ)
眼では見えない小さなダニが皮膚の中にトンネルを作って入り込み、それに刺されると強い痒みを出します。犬同士の接触だけでなく、落下したダニも感染の原因となるといわれています。
この病気の厄介なところは、アトピー性皮膚炎と症状が似ていること、皮膚の検査で検出できないことが多いということです。ですので、試しに駆虫薬を投与して改善するかどうかを観察する「診断的治療」という方法を用います。約4週間で治癒します
4.ニキビダニ(毛包虫・アカラス)
この寄生虫は、正常な犬にも存在するといわれており、何らかの原因で皮膚の免疫力が低下した時に、過剰に増殖し、炎症を引き起こします。眼で見えることはなく、顕微鏡検査で検出します。普通、このダニが痒みを引き起こすことは少ないのですが、炎症部位に細菌が入り込むと、痒みが見られます。
駆虫薬を投与しますが、長期間の治療が必要で、最低3ヶ月はかかると思ってください。再発を繰り返す場合は、免疫力が低下する原因を突き止め、その病気を治療しないとなりません。
5.ノミ
ノミによる皮膚炎です。ノミに対してアレルギー体質を持っていると、少し刺されただけで、強い皮膚症状が起こります。ノミの駆除をすれば短期間で治ります。
6.食物アレルギー
食事アレルギーは判定するのに約2ヶ月はかかります。アトピー性皮膚炎と食事アレルギーが両方かかわっていることも多いです。

アレルギーの原因はフード?

皮膚病が起こると、飼主様によく聞かれるのが、「食べ物が原因かしら?」です。
確かに食べ物(フード、おやつなど)が原因となるアレルギーもありますが、現在の獣医学では原因食材を血液検査などで完璧に診断することはできません。診断法は、「除去食」という特殊なフードを与えて皮膚の反応を見ていきます。「除去食」とは、原因と考えられる物質(主にタンパク質)の入っていない食事で、動物病院で処方します。一般に販売されている低アレルギー食とはコンセプトが全く異なりますので注意してください。

食物アレルギーの診断のためのルール

〇 指示された食べ物と水以外は、絶対に与えない
〇 2ヶ月間続ける

症状が改善したら

もしも、これで状態が良くなれば、あなたのワンちゃんは食物アレルギーである可能性が高いです。これからの食事計画を獣医師とよく相談してください。食事だけで良くなるのであれば、内服薬などは必要ないので副作用などを心配する必要がなくなります。

あまり変化がなかったら

逆に、2ヶ月きちんとやったのに効果がなければ・・・あなたのワンちゃんは食物アレルギーである可能性はとても低いと思われます。他の原因を考えます。したがって食べ物であれこれ悩む必要はありません。ただし皮膚の健康に役立つフードはありますので、それらを補助的に使うと薬の量を減らせるかもしれません。
また、ジャーキーなどのおやつや人間の食べる物などは、アレルギーでなくても皮膚に悪影響を与えるものもありますので、普段から与えないようにしてください。

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